夜の大都市

 

駆ける黒犬

 

迎え撃つは、狂戦士

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

 

 

それは、どの様な魔法か僕は知らない。シロウの右手には、剣の事を良く知らない僕でも禍々しいと思える剣が握られている。走ってくる黒犬に歩いくシロウ、黒犬がシロウに飛び掛った瞬間ソレは起こった。

 

ジュッ

 

何かが焼けるような、溶けるような音と共にいなくなる。それでも黒犬はシロウに向かって行く、黒犬達は何かに阻まれるかの様に一定の距離からシロウに近づけない。それでもシロウに跳びかかった黒犬は、

 

ジュッ

 

溶ける。シロウの周りには幾つかの黒い水溜りが出来ている。僕は不思議に思い、目を凝らしてシロウの周りを見た。シロウの周りには薄く、本当に薄く、黒い霧の様な物が漂っていた。

黒犬は理解したのか、シロウに近づかない。すると、霧が消えた。シロウもこれ以上は無駄だと思ったのか、黒犬に向かって駆ける。

 

最初は無言の斬撃だった。それも二回、三回、と繰り返す内に声が付きシロウの顔に笑みが浮かぶ。僕はソレを見て震えた、その声も、浮かべた笑みも僕の知らない・・・・想像も出来ないモノだったから

 

「ヒャッハァ!!」

 

シロウが最後の黒犬を切り倒した。シロウは、こちらを振り向きニヤリと笑った。僕は、殺されると思った。

 

「ヒッ」

 

アスナさんの悲鳴が聞えた。シロウが、僕の知らないシロウが近づいてくる。手を伸ばせば、確実に届く距離までシロウが来た。

 

シロウが剣を振り上げる。僕は目を強く瞑った。次の瞬間、僕の頬に生暖かい物が掛かった。

 

 

 

 

 

Side 士郎

 

 

黒犬が跳びかかって来るのを止め、邪魔な霧も無くなった。

 

剣を振るう

 

グチャリと音がする。剣から肉を潰し切り裂く感触が、骨を削り砕く感触が伝わる。

 

(ああ、コレだ・・・この感触が堪らない)

 

口元が緩む。聞える声が強くなり、体が、頭が、魂が、如何しようも無く渇く、餓える。

 

剣を振るう、振るう、振るう、剣から伝わる感触に満たされる、聞える声に渇く、餓える。それが堪らなく気持ちいい

 

「ヒャッハァ!!」

 

最後の黒犬を殺す。困った事に、殺す相手が居なくなってしまった。後ろを見る。すると、震えるネギが居た。

 

声がさらに強くなる

 

コロセコロセコロセコロセコロセコロセ殺せコロセころせ殺せ殺せころせコロセコロセ

 

(誰を? ネギを?)

 

俺の意思とは関係なく足が動く

 

(待て、俺は何をしている? )

 

「ヒィ」

 

アスナの声が聞えた。

 

口元が緩む

 

コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ殺せころせ殺せコロセコロセころせ殺せ

 

体が勝手に動き、剣を振り上げる。

 

ネギが目を瞑った。

 

ネギと一緒に倒れているエヴァが見えた。

 

殺せコロセコロセコロセコロセコロセ殺せコロセ殺せコロセころせころせ殺せコロセ

コロセころせオカセ殺せころせコロセ犯せころせコロセコロセ犯せころせ犯せころせ

犯せコロセ殺せ犯せオカセ殺せコロセ犯せオカセ殺せコロセころせころせころせ殺せ

 

(殺せ? 誰を? ネギを? エヴァを? 犯せ? 誰を? ネギを? エヴァを? )

 

剣を持っている腕に力が篭る

 

(巫山戯るなよ!!)

 

振り下ろした剣を左手で止める、ネギの顔に少し血が跳んでしまった。

 

「シロウ?」

 

ネギが俺を見る

 

「ゴメンなネギ、少し怖がらせた」

 

俺はネギの頭を撫でる。右手に有った剣は、俺が体の支配権を取り戻したと同時に消えた。ネギの頭を撫でていると、鈍い痛みが左手を襲った。

 

「シロウ!! 左手!!」

 

ネギが叫ぶ。左手を見ると黒犬と戦っていた所・・・・・正確には黒犬の名残である水溜りから、黒い線が延び俺の左手から腕に絡み付いている。それは鈍痛を与えながら体に染込むようにして消えた、残ったのは刺青の様にできた痣のみ。

 

「シロウ!? シロウ!! 大丈夫なの?」

 

「大丈夫だネギ、それよりエヴァの方は大丈夫か?」

 

「はい、それは大丈夫です。傷はもう塞がりましたし塞がった傷が開く様子もありません。でも、呪いが解けた訳では無いので早く解呪しないと」

 

ネギの声が最後の方だけ弱くなる。すると何かに頭を叩かれた

 

 

 

 

 

 

 

Side アンリ

 

唐突だが今、俺は捕まっている。

 

「それで、衛宮君の雰囲気が変わっているの何故かね?」

 

「はぁ、何言ってんだジジイ。士郎がそう簡単に乗っ取られるかよ・・・てっおい!!」

 

ヤバイ、無茶苦茶ヤバイ、士郎の奴「俺」に乗っ取られてる。

 

「アンリ殿!! 士郎殿は如何したんでござるか!?」

 

楓が俺をジジイから奪い、揺する。それも激しく

 

「や、やめ、やめろーーー!!」

 

俺の叫びを聞いてチビ士郎と刹那、それと大きい刹那達が楓を止める。

 

「ゲホ、ゴホ、ゴホ・・・・・・・・はぁーもう死んでるけど、死ぬかと思った」

 

「すまないでござる」

 

落ち着いたのか楓が頭を下げた

 

「いや、別に気にしてねーから。その内、白いモノでベトベトにしてやるダメ忍者。士郎の方だがヤバイ、だから放せジジイ!!」

 

楓から開放されて自由になった俺を、再び掴んでいるジジイに言う

 

「うむ、マジでヤバそうじゃな。所でアンリ君、君なら何とか出来るのかね?」

 

「だから、放せって言ってるだろうが糞ジジイ!! 残り少ない髪で筆作るぞ!!」

 

そう言うとジジイは手を放した。待ってろ士郎!! 俺は全速力で飛んだ

 

 

 

 

 

Side 近右衛門

 

「学園長」

 

アンリ君が飛んでいってから直ぐ、高畑先生が戻ってきた。

 

「全部貼り終えたかの? 高畑先生」

 

高畑先生は一度頷き

 

「はい、学園長の仰られた通りに『符』を貼って来ました。それと」

 

「なんじゃ」

 

「一応、電力の復旧を遅らせるように伝えてきたのですが・・・・・・案の定のようですね」

 

高畑先生は、橋を一度見てから言った。衛宮君とは親友だと言っていたが、そう言うだけの事は有るのう。まるで以心伝心しているようじゃ。

さて、ワシも久しぶりにヤルかのう。ワシはそう思い、この場に居る八人に・・・いや四人と四体? に言う

 

「これから結界を張るが、お主等は寮に戻っても良いのじゃぞ? 依頼は無効じゃし、違約金も払うのだしのう」

 

「自分のクラスメートに副担任と担任が戦っているんですよ? それを助ける力を持っているのですから、此処にいるのは当たり前でしょう。それに前金は士郎から貰っているので」

 

龍宮くんが、耳につけたイヤリングを触りながら言う。

 

「そうでござる。それに、自分より強い者の戦いを見るのも修行でござるしな」

 

楓くんが、胸元のネックレスを握り言う。

 

「士郎達が居なくなったら、お嬢様が悲しみますので」

 

刹那くんが、自分の左手首を掴んで言う。

 

「そーか、そーか、それだけ理由が在るのなら帰れとは言えんのう。なら、今からする事を説明するぞい、これからワシが広範囲に結界を張る。ネルガルの眷属が多すぎて、全滅させるのに時間が係りすぎるからな。奴は眷属の蓄えた力を吸収する事によって、魔力を回復しているからのう。ワシが結界を張る事によって奴は焦る筈じゃ、何せ魔力の供給が無くなるのじゃからのう。」

 

ワシが説明をしていると高畑先生が

 

「しかし学園長、結界を張るだけで魔力の供給が無くなるのですか? 物理的には隔離出来るとは思いますが、魔力を送る繋がりは絶たれないのでは?」

 

と聞いてきた。

 

「それは大丈夫じゃよ。ワシが今から張る結界はそういう繋がりも絶つ、ワシの特別せいじゃ。(エヴァはこの地に括られてる様なものじゃし、使っても問題無しじゃからのう。) 納得したかのう? 納得したなら続けるぞい。

供給元が無くなった奴は焦って、自らの眷属を呼び戻そうとするじゃろうし、眷属達も本体に何かあったのかと思い集まってくるじゃろう。眷属・・・この場合、使い間としての意味合いの方が強いが、奴の眷属は使い間と動議のようじゃしな。

心配せんでも良いぞ? そこらへんの事は理事になる時にちゃんと伝えられておるから、間違いは無い。話を戻すぞい? そこで奴の眷属達は本体の所に向かおうとするが、ワシの結界に阻まれて進むことができない。眷族達は結界を破壊しようとするが、ワシが張る結界じゃ、眷属程度に破戒されるほど弱くは無い。

なんせこのワシが本気で行使する魔法じゃからの、破戒されたら関東魔法協会理事の名が泣くし。結界を破壊しようとする眷属達は、結界の弱い部分を探すじゃろう。最もそんな所は無いがの、しかし、弱い部分はワシが意図的に作る。それが、今ワシたちが居る所になる訳じゃが・・・・・・後は言わなくても解かるじゃろう?」

 

ワシが言い終わると続くように、高畑先生が

 

「なるほど結界の弱い部分に集まって来た眷族達を待伏せして、一網打尽にする訳ですね」

 

と言った。

 

「その通りじゃ。さて、そろそろ始めるとしようかのう。」

 

ワシがそう言うと、皆が下に降り前線を担当するのであろう高畑先生、刹那くん、楓くん、が少し前に進み。後衛をするであろう龍宮くんが、銃を構える。ワシも結界を張り次第、後衛に回るとするかのう。ワシは声を大きくし言う、コレで眷属達も気付くじゃろうし。

 

「今から行うことは、この魔帆良に住む者達の平穏を護るためでもある!! 皆、気を引き締めて係れ!! 最後に、あまり怪我をしてくれるな!! ワシが衛宮君に殺されちゃうかもしれないから!!」

 

「「「「「「「ぷっ」」」」」」」

 

「たしかに、本体なら殺りかねんな」

 

最後の方で嫌な発言を聞いた気がするのじゃが・・・・・・皆の緊張も少しは取れたようじゃし、気にしないでおこう。

ワシはそう思い、魔力を込め呪文を紡ぐ。

 

 

 

 

錆付いていてくれるなよ? ワシの魔法