私は今興奮している、何故ならば先ほどまで唯の甘ちゃんだった坊やが私に付いて来ているからだ。

最初に放った魔法の矢の数は14、次は17、そして今放った29の矢も防いだ。

 

「ラス・テルマ・スキルマギステル来れ雷精風の精!!」

 

複合呪文か・・・ならば

 

「リク・ラクラ・ラックライラック来れ氷精闇の精!!」

 

「えっ」

 

坊やが驚いている。多分私は笑っているだろう、久しく使う魔法の呪文を唱えながら

 

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

 

「闇を従え吹雪け常夜の吹雪」

 

私と坊やの呪文が完成したと同時に、私は自分の頬が引き攣るのを自覚した。何故ならば坊やに迫る黒い火球を視認したからだ。

 

「避けろ坊や!!」

 

「え?」

 

「ネギ!!」

 

「ネギ先生!!」

 

「チィ! 闇の吹雪!!」

 

ジュバァァァ

 

私の放った魔法と火球が衝突し弾け蒸発する

 

「誰だ!!」

 

私は叫んだ。私の戦いを邪魔をした無粋な輩に向けて、私は周囲に目を向けながら霧散した魔力から自分と坊や以外の物を探す。私の知る限りあの様な魔法を使える者は居ない、可能性としてあの赤い男いが浮かんだが、それは無いだろうと思えた。

 

「カカカカカカカカ!! アノオトコノイッタトウリ、ジョウシツノエサがソロッテいるトハ。シンソにマホウツカイの子、シカモナカナカのセンザイノウリョクをモッテイルヨウダな。ジツニ、じツニウマソウだ」

 

姿を見せたのは魔獣・・・いや悪魔、頭は犬に似た何かで、体は人で黒い毛に覆われている。手足からは鋭い爪が生えており、背からは蝙蝠の様な羽が生えており尻尾は蛇だった。

 

「な、何よこいつ」

 

神楽坂が怯えた声で言う。坊やは何も言わずに初心者ようの杖を構えている

 

「タタカウカ? タタカウキカ、マホウツカイのコよ。イイダロウワタシも、クラウナラバキョウフにソマったタマシイのホウガコノミなノデナ、イイコえデナイテクレよ?」

 

そう言うと悪魔の体から黒犬が飛び出した。私は坊やに言う

 

「坊や私の前に出るな。茶々丸、先に犬から殺るぞ。悪魔の方は雑魚が片付いてからだ。」

 

すると坊やは

 

「待ってください、僕も戦えます!!」

 

と言った。フフやはり坊やは奴の子だ。

 

「魔法の射手で私と茶々丸の打ち漏らしを確実に当てろ」

 

「はい」

 

坊やは嬉しそうに答えた。

 

「マスター」

 

「いくぞ茶々丸、久方ぶりの殺し合いだ」

 

私は茶々丸に言い、呪文の詠唱を始めた。黒犬が走りだし迎え撃つ為に茶々丸が地を蹴る。

坊やも詠唱し始めたが私の予想外に黒犬が多い、私は詠唱しながら悪魔に目を向けこの戦いが今の私にとって不利な長期戦になる事を確信した。

悪魔は依然動かずに黒犬を出している、茶々丸は既に四匹倒しているが黒犬の数は最初よりも増えている。

 

「魔法の射手・氷の17矢!!」

 

私の放った氷の矢が黒犬に当たる。数は少し減ったが魔法発動までのロスを考えると少し分が悪い、坊やも同じく魔法の射手を放つが命中率を上げた為か如何せん威力が低い。私は坊やに言う

 

「坊や一体に付きニ発づつ当てろ」

 

茶々丸は常に神楽坂の斜線上にいる。黒犬や悪魔が放つかも知れない魔法から護れるようにだろう。

私は詠唱速度を上げさらに魔法の射手を放つ、悪魔は動かない。如何や黒犬を生み出している間は動けないようだ。

そう思った。しかし、それは間違いだった。悪魔は笑ったのだ私を見て、直ぐに体が動いた。

次の瞬間悪魔の腕の輪郭がぶれた。しかし、魔力の波動を感じはするが見えない。だが狙いは解かった。私が坊やを突き飛ばした瞬間、私は貫かれた。私が倒れる瞬間、士郎の声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

Side 士郎

 

俺は橋に着くと直ぐに、エヴァに駆け寄った。エヴァの体には綺麗な穴が開いていた・・・大人の腕が一本以上入るような穴が、傷口の悪化は見られないが再生もしない。呪いを解けば良いのだが・・・・・・ルールブレイカーではダメだ。使った瞬間、エヴァは死ぬ。今すぐにでもエヴァを傷つけた奴を殺したい、犯人は解かっている。だが今はそんなことをしている場合では無い。

考えろ、如何すればエヴァを助けられる。如何する・・・如何すればいい!! 今はまだ吸血鬼ならではの生命力で生きているが、電気の供給が始まればアウトだ。俺が考えているとエヴァが目を開けた

 

「お前は・・・・・・士郎・・か」

 

「喋るな、傷が悪化するぞ!!」

 

エヴァは止めない

 

「自分の体・・だ・・・どの様な状況・・にある・・かは・・・解かって・・いる・・・今は・・まだ・・魔力でレジストして・・・いるが・・・時間の問題・だ・・最後ぐら・・い・・好きにさせろ」

 

「諦めるな!! 絶対に助けてやるから」

 

「お前・・・は・・優しい・・な・・・・士郎・・・その・・姿が・・本来の・・お前の姿・・か・・・良い男じゃないか・・士郎・・お前は・・・こんな・・傷を・・・負っても・・生きて・・いる・・・私に・・・家族・・に・・成らな・・・いか・・と言うのか・・」

 

「当たり前だ。なあエヴァ絶対に助けるからさ、もう一度聞くぞ? 俺と家族にならないか」

 

俺は精一杯の笑顔で聞く

 

「フフ・・・なれた・・ら・・良いな・・・士郎・・茶々丸・を頼む・・ぞ・・私・・は・・少し・・疲れ・・・た・・」

 

「ああ少しだけ眠れ、次に起きた時はちゃんと答えて貰うぞ?」

 

「なら・・・考えて・・措かな・・・ければ・・・・いけないな」

 

エヴァはそう言い目を瞑った。すると茶々丸が何時の間にか俺の直ぐ後ろに来ていた。ネギやアスナも一緒だ。黒犬達は如何したんだと聞こうとしたが止めた。茶々丸たちの後ろは風の防壁に遮られていた

 

「衛宮先生、マスターは」

 

茶々丸が聞く

 

「シロウ? シロウなんですか?」

 

ネギが聞いてくる

 

「ちょっとえみやんエヴァちゃんは大丈夫なの!!」

 

アスナが聞いてくる

 

「ああ、エヴァは絶対に助ける。そしてこれが本当の俺の姿だ。二人は此処に居ろ、茶々丸電力供給まで何分ある」

 

俺はネギ達の質問に答え、茶々丸に聞く

 

「約七分です」

 

七分か・・・時間が無いな

 

「ネギあの障壁はどれくらい持つ」

 

ネギは申し訳なさそうに

 

「後三十秒持ちません・・・十分な魔力が練れなかったので」

 

ふむ三十秒かアレが届くまでには十分だ

 

「茶々丸。障壁が解け次第時間を稼いでくれ、雑魚は一掃する本体を狙え・・・アレを使えアクセスコードは『ユグドラシル』だ」

 

と、茶々丸に言うと茶々丸は

 

「衛宮先生、今は学園都市全体の電気が止まっています」

 

と言う

 

「安心しろ。あそこは別電源だ」

 

「解かりました」

 

茶々丸がアクセスする為に数秒沈黙し言う

 

「アクセス完了、プログラムロード、「スレイプニル」起動確認、到着まで後七秒・六・五・四」

 

風を切る音が近づいてくる、風の障壁が弱くなり消えると同時に俺は全ての撃鉄を打ち下ろす!!

 

「投影開始(トレース・オン)・・・・・・投影完了。全投影連続層写!!(ロールアウト・ソードバレル・フルオープン)」

 

弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾

 

二十七の剣弾が黒犬を次々に貫き爆ぜる。しかし俺の攻撃はまだ終わらない

 

「次弾装填(バレッド・リロード)・・・発射(ファイヤ)」

 

絶え間なく打ち出される剣の弾丸既に黒犬はいない在るのは所所に出来た小さなクレーターのみ

 

「行け茶々丸!!」

 

俺が言うと茶々丸が飛び出した。

茶々丸の右腕から肩、肩甲骨の辺りまでを包で居るのは黒い装甲その厚さ故に茶々丸の右腕から肩にかけてが一回り大きく見える。

手の有る部分には回転するドリル。ドリルの柄、手首より少し下に有る宝石から魔力を供給され茶々丸が魔力を纏い、背に有る部分。ブースターが魔力の光を噴出し茶々丸のスピードを上げる。

 

「衛宮先生、マスターを頼みます」

 

ドリルの回転する音に邪魔されながらも茶々丸の声が確かに聞えた。俺は茶々丸の背に一度だけ頷き振り返る、ネギとアスナが呆然としているが俺はネギに声を掛ける

 

「ネギ呪いの解呪は出来るか?」

 

「…出来ません・・・僕の使える回復魔法は掠り傷を治す位しかできません。学園長なら解けるかもしれませんけど、もし出来ないのなら呪いの威力を上回る回復魔法をかけ続けた上で、専門の魔法使いの人じゃないと・・・」

 

「・・・・・・そうか」

 

考えろ、考えるんだ衛宮士郎、俺は自分の記憶を検索する呪いを上回る回復力を与える物または、呪いを吹き飛ばす程の神秘を秘めた治癒を施す物を見つけだせ!! 

 

「えみやん黙り込まないでよ、エヴァちゃんを助けるんでしょ!! ネギ、アンタもよ!! 暗い顔なんかしてないで考えなさいよ!! 頭良いんでしょ!!」

 

アスナが俺とネギに言う

 

「そんな事言われても・・・・・僕の思いつく限り所持者をあらゆる干渉から守るような伝説にしか出てこないような、魔法位しか思いつかないんですよ!! 後は傷を移し変える魔法とか位しか・・・でもそんな魔法は伝えられてないし、伝えられてたとしても禁呪として封印されちゃってますし」

 

「だったらあの怪物倒しちゃったら良いじゃない!!」

 

「ダメです!! 」

 

「如何してよ!!」

 

「こう言う呪いは術者が死んでも残る物が多いいんです、そればかりかもっと強力に成る可能性だって有るんです。危険すぎます」

 

「だったら如何すれば良いのよ」

 

アスナの声が弱くなる

 

「解かりませんよ」

 

ネギの声に振るえが混じる。しかし、あらゆる干渉から護るもの・・・・・・そうか!!

 

「身近すぎて見落としていた、ハハ・・有るじゃないか・・・」

 

俺がそう言うとネギとアスナが俺を見る

 

「何が有るんですか?」

 

心配そうな顔でネギが聞いてくる

 

「大丈夫だネギ、別に自棄になった訳じゃない。焦っていた自分が馬鹿らしくなっただけだ。最初から此処に有ったんだよ、さっきお前が言った魔法が」

 

俺はそう言い自分の胸を叩いきネギの頭をクシャと撫でる

 

「大丈夫だエヴァは絶対に助けるから」

 

俺はそう言い、自分の中に在る物を掻き集める。そう集めて取り出すだけで良いこれは俺の半身で有り、彼女が失うまで彼女を護り続けた伝説の鞘なのだから

 

「投影開始(トレース・オン)」

 

創造の理念など鑑定する必要など無い

 

基本となる骨子を想定する必要も無い

 

構成された材質を複製する必要も無い

 

成長に至る経験に共感する必要も無い

 

蓄積された年月を再現する必要も無い

 

何故ならば最初から此処に有るのだから組み立てるだけで良い

 

手に現れたのは青い鞘、俺は鞘をエヴァの傷口の上に乗せる。

すると除除に傷が治り始めるそれを見たネギとアスナは、顔を綻ばせ目に薄く涙を滲ませながら喜ぶ。

しかし、その喜びも束の間。確かに傷は治り始めているが遅い、俺は時計を取り出し見る。

残り時間は約二分、傷が治りきるか治りきらないかは五分五分だ。

最悪の場合電力供給が始まる瞬間と同時に、ルールブレイカーで全ての魔法を解呪し無ければならない。

これでも分が悪い、人の体は脆い。それに加えエヴァは呪いをレジストする為に常に魔力を使っている状態だ。

真祖から人に戻る事によって何が起こるか解からない上に、今は真祖・・・吸血鬼特有の生命力で何とかなっている状態だ。

俺が考えているとネギがエヴァの傷口に手を当てた、すると傷の治癒速度が上がった。どうやら癒しの魔法を使っているらしい、この速度ならぎりぎり間に合うだろう。

俺はそう思い茶々丸の方を見る、茶々丸は善戦している。悪魔の体に大なり小なり様々傷が付いており、そこから火が吹き出ている。火が消えると傷は最初から無かったかの様に消えていたが、確実に魔力を消耗している様だ。

悪魔にとっては微々たる量かも知れないが、戦いに措いてその微々たる消耗の差が生死を分ける事もある。

それに茶々丸はまだアレを使っていない、すると悪魔の体から黒犬が飛び出した。

茶々丸はドリルでなぎ払うが全てを捕える事はできない、自然と黒犬どもは俺達に向かって走ってきた。

 

「え、えみやん犬がこっちに来てる!!」

 

アスナが言う。

 

「大丈夫だ、護ってやるから」

 

俺はアスナにそう言い、頭をぽんぽんと叩いた。そうだ奴らがエヴァ達の所にたどり着く事は無い、それにさっきから声が五月蝿い

 

コロセ・・・ころせ

 

(ああ、そうするとしよう)

 

殺せ・・殺せ・・殺せ・・・殺せ・・・・殺し尽くせ!!

 

(奴らは俺の大切な物を傷つけたのだから)

 

右手には作った覚えの無い歪な短剣が握られている。コレは何だろうか? まあ如何でも良い、俺は早く奴等を切り裂きたい